スタートアップが成長を続けるためには、優れた技術やサービスを磨くだけでなく、自社のビジョンや挑戦を社会に伝えることが求められます。資金調達や採用、事業提携など、事業成長のさまざまな機会は、そうした発信から生まれることがあります。
本レポートでは、スタートアップ支援企画「Future Pressrelease from IWATE」のトークセッションで語られた内容をもとに、成長するスタートアップに共通する考え方や組織づくりのヒントを紹介します。
当日は、株式会社スタートアップクラス代表取締役社長の藤岡さん、スパークル株式会社代表取締役の福留さん、テレビ東京報道局「WBS」デスクの中村さん、朝日新聞GLOBE記者の関根さんといった、多くのスタートアップ企業を支援し、取り上げてきた方々が登壇。広報PR支援を行う袈裟丸さんがモデレーターを務め、印象に残るスタートアップや、成長を続ける企業に共通する特徴について議論が交わされています。
未来を発信し成長を加速するスタートアップ10社の未来宣言
事業成長の過程では、資金調達や事業転換など幾度もの困難に直面することがある一方で、経営者が思い描く未来のビジョンを、社員や関係者と共有し続けるのは決して容易なことではありません。だからこそ、自社の挑戦や社会に提供する価値を発信し、共感する仲間や顧客、支援者との接点をつくることが重要になります。
そうした発信のひとつの機会として開催されたのが「Future Pressrelease from IWATE(フューチャー・プレスリリース・フロム・岩手)」です。
テーマは、社会課題の解決と自社の事業成長の実現。岩手県内外から集まったスタートアップ10社は、10年後の未来を描いたプレスリリース作成を行い、当日はファイナルピッチに臨みました。
その中から、社会インパクト・実現可能性・PR訴求力の3軸での審査を経て、受賞6社が決まっています。
「Future Pressrelease from IWATE」とは
岩手県の企業や大学などと連携し、地域の情報発信力向上を目指す「チャグチャグいわてPRプロジェクト2026」の一環として実施されています。
https://prtimes.jp/story/detail/oroveSvyNxk

10年後も心に残るスタートアップのエッセンスとは
──「Future Pressrelease from IWATE」は「10年後の未来を描く」がテーマですが、みなさんがこの10年を振り返って、特に印象に残っているスタートアップや、その成長から学べることを教えてください。
中村さん(以下、敬称略):一番印象に残っているのは、やはりOpenAIですね。AIが社会を変えていくスピード感は非常に大きく、この数年で世界のあり方そのものを変えたスタートアップのひとつだと思います。企業価値も急速に拡大し、気がつけばユニコーン、さらにはデカコーンと呼ばれる規模にまで成長しました。手前味噌ながら、テレビ東京は日本のメディアではじめてOpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏のインタビューを行ったのですが、この10年を振り返ったとき、特に印象に残るスタートアップだと感じています。
関根さん(以下、敬称略):私自身、スタートアップを取材する機会が多いのですが、特に関心があるのは、社会課題をどのように解決しているかということです。その点においては、ここ盛岡市に本社を置くヘラルボニーは外せませんよね。
また、東京で格安義足の開発を手がけ、ウクライナでの実証実験も行っているインスタリムも、印象に残っている企業のひとつです。義足は高価で、これまでは事業化が難しい領域でもありました。しかし、テクノロジーを活用することで社会課題の解決と収益性の両立に成功しています。そうした事業モデルはインパクトがありましたね。

福留さん(以下、敬称略):岩手で語るのであれば、雨風太陽でしょうか。もともとは「ポケットマルシェ」としてスタートし、花巻市発のスタートアップとして上場を果たしました。東北では約13年ぶりとなるマザーズ上場(現・東証グロース市場)だったと記憶しています。代表の高橋博之さんは現在も全国各地を回りながら、「自分たちにもできたのだから、みんなも挑戦してほしい」と後進の起業家たちにエールを送り続けていて、地域発スタートアップのロールモデルとして、大きな存在だと思います。
そして、もう一社印象に残っているのが、宮城県山元町で「食べる宝石」と呼ばれる「ミガキイチゴ」を手がけるGRAです。東日本大震災をきっかけに創業したスタートアップで、上場ではなく大手農業関連企業とのM&Aという形で成長を遂げました。そこで得たリターンを地域へ再投資している点も非常に印象的です。
藤岡さん(以下、敬称略):海外の企業ですが、Uber(Uber Japan)でしょうか。みなさんもご存じの「Uber Eats」を展開する企業です。今から10年前の2016年頃は「シェアリングエコノミー元年」とも言われ、「どんどんものをつくって売る」のではなく、「限られた資源を分かち合う」という考え方が広がり始めた時期でした。そうした時代の流れの中で、車やドライバーといった既存の資源を共有するUberのビジネスモデルが支持を集め、急成長しました。
日本でもその流れを追うようにシェアリングの価値観が広がり、メルカリも2018年に上場しています。今では「分かち合う」という考え方は当たり前になっていますが、その大きな転換点の一つが2016年だったと思います。

審査員が語る「成長するスタートアップ」の共通点
──これまで多くのスタートアップを取材してきたお二人から見て、成長するスタートアップに共通する特徴はありますか。
関根:私は昨年、半年ほどスタートアップに出向していたので、現場をリアルに体感する機会がありました。その経験から感じるのは、やはり代表の熱意やパッションの大きさですね。
レガシー企業はロジックを積み重ねながら事業を成長させていきますが、ロジックだけで実現できるのであれば、そもそもスタートアップである必要はありません。スタートアップには非連続な成長が求められ、その原動力になるのはやはり代表やチームの熱意、そしてビジョンだと思います。
最近はディープテックのように技術力が注目されることも多いですが、その技術を生かすも殺すも結局は人です。代表や従業員がどれだけビジョンを共有し、熱意を持って取り組めるかが重要だと思います。
中村:そもそも私たちは代表に熱意のある人しか取材しないので、関根さんのいうような前提はあります。そのうえで感じるのは、成長スピードの早いスタートアップは社員が元気なんですよね。
社員が元気かどうかはどうやってわかるのかというと、私たちは普段カメラを回して取材していますので、カメラの前では誰でも元気に振る舞うことができます。でも、取材を重ねていく中で、カメラが回っていないところでも、その会社の本当の雰囲気が見えてくるんです。
成長の早いスタートアップでは、とにかく会社への不満がほとんど出てこない。もちろん不満がゼロというわけではないと思いますが、それよりも「どうしたら会社をもっと大きくできるか」といった話になることが多いんです。大企業だと不満が話題になることもある中で、スタートアップの場合は社長の熱意を前提に、社員も同じベクトルを向いて走っている。そういう会社がやはり成長している印象がありますね。

──藤岡さんにお伺いしたいのですが、成長が早いスタートアップの人事面や組織面での特徴は何かありますか。
藤岡:私たちはこれまで1700社以上のスタートアップを支援してきました。その企業に共通しているのが、社長自身が採用に深く関わっていること。一次面談から最終面談まで、社長が採用にコミットしているケースが非常に多いんです。目安にはなりますが、3~5割の時間を採用に割いています。
なぜかというと、スタートアップは大企業と違ってまだ何もないことが多いけれど、ビジョンはある。その大きな夢や目指す未来を、採用候補者に最も熱量高く伝えられるのは社長以外にいません。だからこそ、採用を人任せにせず、社長自身が最前線で発信し、スカウトを行い、面談にも関わる。そうした会社は採用もうまくいっています。ですから、スタートアップの経営者にはぜひとも「採用は自分の仕事」という意識を持って取り組んでほしいですね。
──福留さんは投資家の立場として、成長の可能性を感じるスタートアップにはどのような特徴があると思いますか。
福留:一番は「変化を楽しめるしたたかさ」を持っている会社ではないでしょうか。スタートアップは安定とは真逆の存在だと思われがちですが、実は世の中そのものが常に変化しています。例えば、現在のベネズエラやイランを巡る情勢や、ナフサ不足のような話を一年前に予想していた人は多くなかったはずです。そのように自分たちを取り巻く環境が大きく変わることを前提にすると、むしろ変化を生み出し、変化に対応できるスタートアップの価値は高まっていると感じています。
ただし、東北の中だけで活動していても成長は難しい。広報PRを通じて仲間を集め、お金を稼ぎ、社内にはビジョンを浸透させ、お客さまには事業として成り立つことを伝えていかなければなりません。そうしたさまざまな変化の中で、「今、自分たちに足りないものは何か」を考えながら前に進み続けられる会社はやはり伸びますし、挑戦を後押しさせていただきたいと思いますね。

まとめ:ビジョンを発信し、共感を事業成長の力に
今回のトークセッションでは、10年後も語られるスタートアップの特徴や、成長を続ける企業に共通する考え方について語られました。
急成長するスタートアップには優れた技術やサービスだけでなく、「ビジョンを共有し周囲を巻き込む力がある」ということが、登壇者の言葉から浮かび上がりました。代表の熱意、社員が同じ方向を向く組織づくり、経営者自らが採用に向き合う姿勢、変化を楽しみながら前に進むしたたかさ。登壇者の言葉からは、事業成長の背景にある「人」と「発信」の重要性が共通して語られました。
スタートアップにとってプレスリリースは、単なる情報発信の手段にとどまらず、自社が目指す未来や社会に提供する価値を言葉にし、仲間や顧客、投資家、地域との接点をつくるための大切な起点です。自社らしいビジョンを描き、発信し続けることが、スタートアップの成長を後押しする広報PRの第一歩になるでしょう。
登壇者プロフィール
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テレビ東京 報道局「WBS」デスク 選挙特番「選挙サテライト」チーフプロデューサー
中村 航経済担当記者として日銀・東証・財界などを取材したのち、国際報道番組「未来世紀ジパング」ディレクターとしては『香港の民主化運動に身を投じる若者たち』『フィリピン・ミンダナオ島での「イスラム国」系勢力と軍の戦闘』『中国フィリピンが領有権争いをする海で暮らす漁師』『ミャンマーで少数民族武装勢力の村で旧日本兵の遺骨収集をする元僧侶』『軍隊を捨てた国・コスタリカ歴代大統領の』『アデン湾での海賊と戦う世界の軍』など、日本では光が当たりづらい国際ニュースについてドキュメンタリーなどを制作。テレ東・ロンドン支局時代にはウクライナ侵攻、エリザベス女王崩御、イギリスのEU離脱、新型コロナ禍での欧州ロックダウンなどを取材した。テレビ東京の配信サイト「テレ東BIZ」、YouTube「テレ東BIZダイジェスト」では「中村ワタルの”沸騰”世界情勢」というコーナーで解説動画を不定期配信中。世界のニュースを時にマニアックに伝えている。
【モデレータープロフィール】

テックベンチャー総研 企業広報研究会事務局長/一般社団法人パワーストローク広報顧問/株式会社AJプランニング 代表取締役社長/広報コンサルタント・メディカルプランナー
袈裟丸 梨里子医療系BtoB企業の広報部立ち上げとマネジメントを経験後、医療ロボットベンチャーからオファーを受け転職するも、コロナ禍の影響から半年で倒産の憂き目にあう。この経験をバネにTech系専門広報として独立し、ピーク時には7社を請け負うまでに成長。そのうちの1社から多数のメディア露出実績を認められ執行役員CMOとして事業成長に貢献。退職後は幅広い経験を生かし、大手企業の広報アドバイザリー業務、講師活動、教育系事業支援などに積極的に取り組んでいます。2024年10月よりPR TIMES公認プレスリリースエバンジェリストとして活動。
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